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もらいすぎか、米国の「役員報酬」
−米企業の議決権行使の一つの焦点−
(2002年09月16日)
米国の証券市場において、株式取引の主役は1960年代までは個人株主であったが、その後法人株主が多くなり、1990年代には株主構成において 機関投資家が圧倒的な比重を占めるようになった。昨年末、全米取締役協会は機関投資家の総資産は1999年末18.6兆ドルになったと発表した。 これは401Kの資金、個人の投資信託を通じたベビーブーマー達の公的年金・企業年金、伝統的な労組共済などの資金が、直接的・間接的に大量に 株式市場に流れたためである。このため株主の機関化現象が一層顕在化し、「受託者責任」を標榜する機関投資家の存在感が一段と増してきた。 つまり、この機関投資家は、受益者たる個々人に対する「受託者責任」の一環として、運用投資先である株式発行体に対して「モノ申す株主」 となり、コーポレート・ガバナンスの観点を強く意識して株主提案や議決権行使をするようになった。

企業業績の低迷に加え同時テロもあって株式市場が低迷し、不景気感が漂うなか、米国の一部の機関投資家は株主利益を少しでも確保しようと、 役員の高額報酬に異を唱え始めている。以下は米国における高すぎる役員報酬に関する様々な見方を、労組、マスコミ、機関投資家などステ−ク・ ホ−ルダ−の立場からまとめてみた。
AFL-CIO(労働総同盟産別会議)
今年7月東京でインターナショナル・コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN)会議が開催された際、米国からAFO-CIO関連の労組UFCW (ユナイッテド・フード&コマーシャル・ワーカーズ・インターナショナル・ユニオン)も参加した。この労組の説明では全米の労働組合で 機関投資家として直接・間接的に保有している株式は、約7兆ドル(約840兆円)であると言う。1955年に設立さたAFL-CIOは64の業種組合に 1300万人の組合員を傘下に擁するが、保有株式の議決権は社会的・経済的観点から行使されるため、他の機関投資家の議決権行使のガイドラインとは 若干異なる。AFL-CIOは特に1997年よりアメリカの大手企業の役員報酬を定期的にチェックして、インターネットで企業トップの業績と報酬の 関連について公表し社会的に注意を喚起してきた。このキャンペーンの背景には、企業トップの激職と成果に見合った報酬なら納得できるが現状は必ずしも関連性がない場合が多く、法外な報酬が株主利益を減少させているとして株主として「反対」するもので、多くの米機関投資家の中にも次第にこの問題に同調するところが増えている。
マスコミの報道
米国のCEO(社長)の責任は極めて重く、その職務は想像を絶するポストであるため、この激職に耐え得る人はそう多くない。従って、人材斡旋会社の仲立ちによりその手当ては需給関係で決まりがちであり、企業業績の成果に伴う高額報酬は当然であるとしても、余りにも法外な金額が支給される例が多いため、株主だけでなくマスメデイアも関心を強めている。米国では役員の上位5人までの報酬は規則により公開を義務付けられていることもあり、中立的な報道を行う“ビジネス・ウィーク”や会社寄りの記事を書く“フォーチュン”などのマスコミもこの報酬関連の資料を定期的に取り上げ、株主に対してだけでなく、社会的にも問題を提起し始めている。企業の業績が好調で株価も右肩上がりであれば、世間はこの問題に余り注目しないものの、昨今のように株価が下落し、業績が不振になると注目される。ビジネス・ウィーク誌の定期調査では、アメリカのCEOの平均報酬は1980年にはブルー・カラー従業員の平均給与の42倍、1990年は同85倍であったが2000年には531倍になったと言う。2000年におけるS&P500社の株価指数は10%下落し、NASDAQの指数も39%下落したにも拘わらず、米大手企業のCEOの平均報酬はストック・オプションとボーナスを含めて2,000万ドル(約24億円)であったことは、トップと一般従業員との給与格差が更にひろがり、今年の3月から5月に開催されたアメリカの株主総会において機関投資家などから法外な役員報酬の「見直し」、または「反対」とする株主提案が50件以上あったと報じられている。(2001.4.16同誌)。
機関投資家の動き
カルパ−スは1996年以来、長らくコーポレート・ガバナンスの実態をチェックし、その実践が悪いと判断される米企業をフォーカス・リスト(要注意会社)として発表してきた。今年はワーナコ社、サーキッド・シティー社、ランス社、メトロメディア社の4社を内外に公表した。今回リスト・アップされた企業に共通した指摘点は、「過半数の社外取締役を選任させること」および、これら社外取締役による「報酬委員会の設定」を求めている。カルパースはこれらの各企業の株式を20万〜80万株以上保有しているため、各社にたいして書面で役員報酬等の見直し要求を執拗に行うと同時に、その決定の経緯や妥当性などについて説明責任を求めている。このため、各企業のCFOやIR担当者は弁護士やコンサルタントと相談したりして対応に大童である。
情報サービス機関も非難
金融市場に影響力のある米情報サービス機関「ブルンバーグ社」はその時々の市場における話題を鋭く分析・解説することで定評がある。同社は米国の大手企業106社の役員報酬システムを調査し、今年6月にその結果を発表した。これによると、シティー・グループのサンフォード・ウエィル氏は会社の業績がパッとしないにも拘わらず、年俸のパケージとして226百万ドル(約271億円)を貰っていることから、「最も貰い過ぎの経営者」とコメントした。また今年の株主総会で多くの市場関係者が貰い過ぎと非難した、ソフト大手のCA社のワン会長を、業績不振で株主価値が63%下落したものの、1998年から2000年にかけて698百万ドル(約840億円)を手にしたとして非難している。
株主を怒らせた3社
ニューヨーク市公務員・教職員年金、コネチカット州公的企年金、全米トラック運転手労組、全米電気労組などは、今年3月に、業績が顕著でないのにトップ交代時期に合わせて餞別金的に法外な高額報酬をトップに支払おうとした、バンク・オブ・アメリカ社、スプリント社、コンセコ社の3社に対して、支払いすぎの役員報酬を削減するよう株主提案を行なった。この株主提案は多くの労組関連の株主や機関投資家にも呼びかけられたため3社にインパクトを与えることになり話題になった。これらの公的年金や労組が問題視したのは、別紙のとおり5年間にわたり各社の株価がS&P株価指数に比べ、30〜50%のマイナスであるにも拘わらず、3社のトップの報酬はその期間合計して少ない人でも95百万ドル(約114億円)、多い人では218百万ドル(約261億円)支給されたためである。

話題の3社のトップの報酬と株価動向
会社名 トップの名前 5年間の合計報酬 株価/(SP500)
バンク・オブ・アメリカ マッコール氏 $95.6百万ドル
(約114億円)
▲34%
スプリント社 エスレイ氏 $218.4百万ドル
(約262億円)
▲34%
コンセコ社 ヒルバート氏 $146.2百万ドル
(約175億円)
▲50%
(afl-cioのHPより)

現状の日本の「ほどほどの役員報酬」を勘案すると、役員報酬に関しては、内外の機関投資家が米国の株主と同じように日本企業に「モノ申す」可能性は現段階では少ない。また、前述のICGNの大会に日本の連合幹部も出席していたが、コーポレート・ガバナンスの観点から、この件に関して一言の発言もコメントもなかった。ステーク・ホールダーの重要な構成メンバーとしての労組から、日本の『つつましい資本主義』と米国の『貪欲な資本主義』を比較して、ガバナンスに係わるこの件で公的な発言を聞いたことがないし、マスコミもこの問題に鋭く分析・報道しないのは残念である。
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