コーポレート・ガバナンス評価研究会では、コーポレート・ガバナンス、内部統制、リスクマネジメントについて日々研究しております
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無視できない、SRIの動き
(2003年06月09日)
1.はじめに
(1)企業不祥事と社会的責任
エンロンやワールドコムは第三者の目には突然死に見えるが、破綻に至るまでに社内的には様々「症状」があったはずであるが、 それらの症状を会計士や弁護士から社外取締役らに適切に報告されず、ミス・リードされたといわれる日本においても企業不祥事の 発覚は跡を絶たない。報道される内外企業の不祥事は「株価至上主義」や「利益第一主義」経営の反省であると同時に、コ−ポレ−ト・ ガバナンスが画餅に終わり、内向きの企業文化に深く結びついた企業の「社会的責任」に係わる自覚の問題でもあるといえる。 また、企業不祥事は当該企業の株価を下落させるだけでなく、場合によってはその企業の信任を消滅させることにもなりかねない。 このため株主・投資家も、企業不祥事には敏感に対応するようになっている。つまり投資側は社会的責任感の乏しい企業の株価は 突然株価が下落するリスクがあることを恐れ、次第にこれら社会的責任に係わるリスク項目をコーポレート・ガバナンスの項目とともに チェックする傾向が内外とも高まろうとしている。
(2)社会的責任投資の流れ
株主・投資家に関心がある「社会的責任」としてカバーすべき領域は、コンプライアンス、環境・エネルギー問題、社会的貢献活動、 倫理問題、人権・雇用問題、、地域との共生等幅広く奥行きの深い分野が多い。例えば、社内規定や規律を制定したからといって直ちに 全ての社員が好ましい倫理感や価値観に基づいて一定の方向に自ら走り出すものでもなく、又強制的に向わせられるものではない。 企業文化の醸成と同様に相当の時間と努力がかかる。また企業が社会の一員として環境活動や社会的貢献を行うことは、思いつきで 短時間に提案出来ても、言葉を行動に変えるのは容易ではなく、社内一人一人自覚とコツコツと長期にわたるコスト負担と企業努力が 不可欠といえる。

米国において社会的責任論が、企業経営にとって一つの経営課題として認識されたのは比較的早く、1920年代の初めに企業の社会的 責任に重点をおいた「社会的責任投資」(Socially Responsible Investment; 以下SRIという)という概念が構築された。

そもそもSRIのスタートは、主としてキリスト教教会などの宗教基金が、「教義に反する事業を行っている企業には株式投資しない」という投資方針を打ち出したことからと言われる。このSRIのテーマは今日まで時代背景により多様に変化してきた。つまり、当初は宗教的理由からタバコ、酒、ギャンブル、武器製造等の関連銘柄への投資は回避されたが、1960年代からは労働組合資金、公的年金、大学基金等がベトナムの反戦気運から軍需産業関連銘柄をネガテイブ・リストとした。同じ頃から人種問題に関連してIRRCが中心になり、南アフリカへの出資をする銘柄投資に消極的アドバイスを行って来た。 1970年代にはSRIに係わる投資ファンドが発売され、一般投資家も次第に企業の社会的責任に関心を示しはじめてSRIが米国内のマーケットで次第に認知されるようになった。 1980年代になって、SRIの対象項目には環境・エネルギ−、人権、雇用問題、人種差別、社会貢献など幅広い要素が加えられ、今日見られるSSRIの主要な論点が確立した。
(3)拡大するSRIのチェック項目
2002年にはこの流れは加速され、昨今の内外の一連の企業不祥事を背景にして欧州では倫理・法令遵守やコーポレート・ガバナンスの項目もチェックしようとするSRIファンドも見られるようになった。つまり倫理・法令遵守やガバナンスなどについて幅広く問題を提起して「投資した株や社債が紙屑になってからでは遅い」として経営トップの暴走や業績に不釣合いな高額報酬をチェックしようとするSRIが見られるようになった。しかし、CEOの暴走や不当な高額のペイは企業モラルを低下させるとしても、これらの問題は本来的にはガバナンスそのものの課題である。また、グロ−バル化と社会の急激な変化に伴いSRIに係わる領域が拡大し、後述のようにテロ関連の関与までチェックされるようになってきた。しかし、株式投資後にガバナンスに係わる問題が発覚すれば、直ちに当該株式を売却せずに持ち続け、株主提案か議決権行使を執行出来る点を考えれば、事前に銘柄を厳選するSRIとインデクス運用が多いガバナンス・チェックは株主・投資家の視点から異なるものと思料する。
(4)無視できないSRI
日本企業の経営トップのSRIの認識はコーポレート・ガバナンスと同様に企業によってその濃淡がある。SRIが将来的に株価に具体的にどのような影響を与えるかについて、科学的・論理的裏付けは現段階ではない。発行体(企業側)から見て、投資家が自社製品が宗教的理由のみで株式投資をしてもらえないのであれば、その経営陣としては「止むを得ない」(uncontrollable)と理解しよう。しかし、一部の投資家・株主だけでなく、多数の一般投資家もこのようなSRIのチェック項目を、今日言われるようにコンプライアンス、環境、社会貢献、人権・雇用問題など幅広い経営内部要因までも含めた項目についてチェックするようになれば、この種の株主・投資家の動きを無視することは賢明とは言えない。また企業イメ−ジの維持・向上と株価対策ためにもそういう動きを的確に分析・判断して自主的に早めに対処する努力が求められよう。
2.日米にみる社会的責任投資
(1)日本のSRI投信
1999年8月に日興アセットマネジメントが環境問題を積極的に取り組む企業のみを組み入れた「日興エコファンド」を設定し注目された。1999年9月には朝日ライフアセットマネジメントが「環境」に加えて、「消費者対応」、「雇用」、「市民社会貢献」の四分野から企業評価して運用対象を決める「あすのはね」という、社会貢献ファンドを設定した。後者のファンドの銘柄選別方法は、
  • 国内の上場・店頭の全銘柄の時価総額上位700銘柄を選定
  • この銘柄に対して下記の社会貢献度の調査を行い、約300社に絞り込む。
  • この300社の銘柄に対して投資魅力度やリスクチェックを行い、約50社〜100社の銘柄のポートフォリオを設定。
≪社会貢献度のチェック項目≫
  • 環境:環境配慮の社内体制、環境汚染、廃棄物の把握と対応、エネルギー対策など
  • 消費者対応:消費者意見の反映、高齢者・障害者への配慮など
  • 雇用:女性・高齢者・障害者の活用、育児・介護休業の制度、人権・問題への対応など。
  • 市民社会貢献:会社・社員のボランティア活動、地域との共生の取組みなど
日本における環境配慮型ファンドの概要は下表の通りである。この表によると、設定額が100億円を越えたファンドは2本で、また「エコ」を冠したファンドは平成11年と12年に4〜5本設定されたが、その後は少ない。多種多様の巨額な投信ファンドが設定されてきた日本市場ではまだSRIのブ−ムは残念ながら到来していないと言えよう。
日本における環境配慮型ファンドの概要(平成14年2月28日現在)
設定・運用会社名
(評価担当会社)
設定年月 ファンド名
(愛称)
純資産
(億円)
日興アセットマネジメント
(グットパンカー)
平成11年8月 日興エコファンド 617.5
安田火災グローバル投信投資顧問
(安田火災、安田総研、損保ジャパンリスクマネジメント)
平成11年9月 安田火災グリーンオープン 84.83
興銀第一ライフ・アセットマネジメント
(グッドバンカー)
平成11年10月 エコ・ファンド 85.18
USB投信投資顧問
(日本総合研究所)
平成11年10月 USB日本株式エコ・ファンド
(エコ博士)
47.79
UFJパートナーズ投信
(UFJ総合研究所:協力)
平成12年9月 エコ・パートナーズ
(みどりの翼)
38.74
朝日ライフアセットマネジメント
(三菱総合研究所、ハノリックリソースセンター)
平成12年9月 朝日ライフSRI社会貢献ファンド
(あすのはね)
71.76
三井住友海上アセットマネジメント
(インタリスク総研)
平成12年10月 エコ・バランス
(海と空)
12.05
日興アセットマネジメント
(SAM(スイス))
平成12年11月 日興グローバル・サステナビリティー・ファンド
(globe)A(ヘッジなし)
44.12
日興アセットマネジメント
(SAM(スイス))
平成12年11月 日興グローバル・サステナビリティー・ファンド
(globe)B(ヘッジなし)
12.05
大和住銀投信投資顧問
(イノベスト・ストラテジック・バリュー・アドバイザーズ社(米国))
平成13年6月 グローバル・エコ・グロース・ファンド
(Mrsグリーン)A(ヘッジあり)
68.5
大和住銀投信投資顧問
(イノベスト・ストラテジック・バリュー・アドバイザーズ社(米国))
平成13年6月 グローバル・エコ・グロース・ファンド
(Mrsグリーン)A(ヘッジなし)
123.82
合計 1,216.55
出所 環境庁『金融業における環境配慮行動に関する調査研究報告書』
(2)米国のSRIの動き
@SRIよりガバナンスからのアプローチ
アルコール、タバコ、環境問題に厳しく目を光らせ、よき市民の一員として企業投資をして来たSRIファンドはエンロンやワールドコムなどの一連の企業不祥事に対して無力であった。例えば数年にわたりThe Calvert Social Fund はエンロン株投資で損失を蒙ったし、Pax High Yield Fund も不祥事件を起こしたケーブルTV・通信会社アルデイフィアコミニュケーションの株式に1860万ドルの株式投資をしていた。Morning Starは過去1年間ミューチャル・ファンドの平均利回りは約13%であったが、SRI関連の株式・債券の投資実績は19%のマイナスであったという調査結果を発表している。これらはSRIの株式投資は必ずしも米国市場でうまく運営されてきたとは言えないことを意味している。

米国で見られるSRIは株式投資に際して、環境への配慮、従業員への待遇、社会貢献、コミュニテイーとの関係、コンプライアンスなど投資先の企業を取り巻く社会的責任体制をまずチェックし、同時に売上の構成がアルコール、タバコ、ゲーム、武器製造などに関与していないことを確認して銘柄を厳選投資する。 ただし一部の投資家のようにSRIに関心があっても、米国の多くの機関投資家は株式投資効率をまず念頭にする。このため、多くの投資判断は危機管理体制や売上構成の内容を詳細にチェックするより、B/S、P/L、フリー・キャッシュフローなどをキチンと調べ、ROEなどの財務指標を重視する傾向が強い。また、マーケテイング力や経営スタイルも重視するため、経営に対する責任説明、透明性などを常に求める。これはコーポレート・ガバナンス関連に関心を強く示す機関投資家のほうが、SRI関連のチェックを厳しく行う投資家より金額面と投資家数で圧倒的に多いといえる。
ADomino 400 Social Indexの場合
アメリカの代表的なSRIであるDomino 400 Social Index(以下DS400という)は幅広く社会的責任の各面をチェックして1989年より米国の400社に投資している有力なファンドである。このファンドが選択した400社はS&P500社の中から250社、S&Pに入っていない大手企業100社、残り50社は社会的責任を強く果たしていると思われる企業である。DS400がファンドの投資選択の基準としているのは以下の通りである。
  • 軍需関連の売上が2%以下の企業
  • アルコールやタバコなどの製造に関与していない企業
  • ギャンブルゲームや関連サービスに関与していない企業
  • 南アフリカに資本投資していない企業
  • 原発に出資していない企業
  • 人種問題、雇用問題、環境、製品で社会的問題がない企業
  • 時価が5ドル以上の企業
  • 中長期的に財務面で問題がない企業
なお、投資先企業で問題が発生した場合は、ただちに当該企業をリストからはずさず、本質的な問題か否かをよく吟味して問題企業は削除する。DS400の利回り目標は年間4%と している。
Bテロ関連企業はSRIのチェック対象か
米国ではテロに協力的な企業に対する株式投資自粛の動きがある。 ペンシルベニア州、カリフォルニア州、ニューヨーク市等の公的年金を運用している公的機関は、イラク、イラン、スーダン、シリア、リビア、北朝鮮等6ヶ国でテロと何らの関連した事業を行っている260社の行動をチェックする「グローバル・セキュリティー・リスク・モニター」という審査機構を創設した。 既に米当局はテロリスト又はテロリストに金融支援している210社のブラックリストを公表しているが、今回は「公的年金をこの種の反社会的企業に投資したくない」として、IRRCが主導して新たなスクリーン制度を設けた。公的機関が株式運用の自粛を行ったのは最近ではタバコ会社とナチが加担したといわれるスイス銀行への投資があるが、古くは人種差別した南ア政府や軍事政権のミャンマー政権と取引している企業への株式投資中止も行われた。IRRCは企業名こそ明らかにしないが、ドイツを代表するM電機、日本のM重工、ヒューストンのエネルギー会社C社等がリスト・アップされているといわれている。

カリフォルニア州の財務長官でカルパースの理事をしているアンジェリデスは、今年7月、州内の公的年金基金に対して株式投資対象先にテロに関与している企業があるか否かのチェックを行うよう要請した。カルパースは既に海外における株式投資運用基準の一つに、政治的安定と人種問題をチェック項目に入れている。この動きはSRIの理念と同じ潮流と言える。一方、米当局と金融筋はこの種の株式投資の抑制が幅広く行われると不振に陥っている現在の株式市況を一段と低迷させかねないと懸念している。なお、カナダのTalisman Energy Inc.はスーダンで石油関連事業に深く関与しているとして、カルパースやクレフは1999年に当社株を売却した経緯がある。(2002年7月5日付 L.A. Times)
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