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ファンド主導の08年の株主総会
(2008年11月09日)
1.外資ファンドとデジタル化の総会
(1)主役は外資ファンド
今年の新しい動きの一つは、従業員や取引先による「持ち株会」による株式保有が大株主として登場してきている上場企業が増えていることだろう。2008年3月期末で上場企業の約半分の1900社余りで株式保有比率10位以内の大株主が「持ち株会」になってきた。会社側の株主の多数派工作を意識した安定工作は、持合強化や持合株を売却させないようとの要請と相俟って、ガバナンス状況は逆転し始めてきた。
もう一つの動きの特長は、反社会勢力に対する法規制と取引監視の強化より、総会屋の動きは限定的になったものの、投資ファンドの動きが活発となったことである。これは総会の「陰の主役」と言われた総会屋の不規則発言のために全役員が想定問答を真剣に演習した時期は去り、代わって経営内容に厳しい目を向ける、新らしい主役のアクテイビスト・ファンドに対する対応に役員全員が苦慮する時代になったといえる。
投資ファンドは増配、役員選任、買収防衛政策などに関して会社側に「モノ申す」だけでなく、場合によっては株主提案により経営に関与し始めた。注目されたアクティビスト・ファンドともいわれる投資ファンドには、スティールパートナーズに代表される米系ファンドが10社の他、英系、豪州系、シンガポール系などの青目ファンドが多い。ファンドへの出資金の実態は海外のヘッヂファンドや年金基金が多く、ターゲット企業の銘柄選択を日本側の代理人が行い、海外からの指示にもとづいてその代理人が発行体(企業)に、株主提案やメディア発表を通じて株主活動をする場合が多く見られる。
どの銘柄をどういう基準で投資ファンドが狙うかのはっきりした基準はない。過去の事例から推測すると、@所有不動産や余剰金が多い、APER(一株当利益率)やPBR(株式純資産倍率)が低い、B業界内で業績と株価が低迷傾向、C配当水準が特別の事情も無く低い、Dガバナンス状況が未熟E株主構成分布状況などから取組み易い、などの点が総合的にチェックされているようだ。 さらにこれまでの傾向から判断するに、一般株主からも「株主軽視」と指摘されがちな企業を選び、経営改善の一環として株主提案する。ただし、株式保有期間はせいぜい3−5年で平均投資利回りは約10%と設定し、主な目的は「株価上昇」に伴う売却益(キャピタル・ゲイン)狙いが多い。
このため、株主総会はいわゆる反社会的勢力が暗に「利益供与」を求めた「シャンシャン総会」から、経営トップに対する株主重視政策を求める「経営政策の会話」の場として質的に大きく変化してきた。
(2)進む総会のデジタル化
電子化社会の発展にあわせ、また、議決権行使を促進するため、インターネットや携帯利用の投票が2002年2月より開始され、その利用は次第に増加してきた。2005年6月の時点ではネット利用での議決権行使を認める会社が300社、携帯利用による投票が松下電器、ホンダ、ソフトバンクなど100社となった。一部の議決権行使助言会社が携帯電話利用による議決権行使の助言アドバイスを一社当たり315円で開示するビジネスを開始したこともあり、2008年度は議決権にかかわるネット利用会社が広がり、電子ネット及び携帯利用投票を採用した企業は、6月末時点600社弱となり着実の増加してきた。東証の発表のよると日経平均採用銘柄では170社で全体の76%、一部上場企業では67%の会社がネットで議決権投票が出来るようなった。このシステムは議決権行使のために時間的余裕のない外国人株主や遠隔地の株主にとって便宜を高めると同時に、総会における事業報告のパワーポイント利用による説明とともに、「株主総会の電子化」を一段と促進してきた。このことは、一昔前に、経営トップの総会屋への対応に最も注力したアナログ的な「シャンシャン総会」から、経営実績を計数(デジタル)で示して、議決権の過半数を如何に電子的(デジタル)に確保するかという「デジタル総会」に変わりつつあることを意味する。
2.注目される議決権行使動向
(1)企業年金連合会(PFA)
約12兆円の公的資産の国内最大の運用機関である企業年金連合会は、2007年2月のガイドラインを改定して、「取締役再任」議案と「役員報酬支給」議案に対しては、3年連続でROEが8%未満と3期連続赤字・無配、又は5期最終利益通算が赤字の会社に対して反対してきた。また、「役員の退職慰労金の支給」の議案と、独立性・適格性に問題ある「会計監査人選任」議案にも否定的であった。
PFAはこのガイドラインに基づき、2008年6月の総会では819社へ議決権行使をし、買収防衛策については38.6%、取締役選任議案の38.8%、退職慰労金議案の48.1%bに各々反対した。 PFAは運用資産の大半を民間の投資顧問会社に運用を委託しており、受託している民間の運用会社は受託資産に対する議決権行使の具体的な行使状況の報告を求められ。従ってPFAのガイドラインに沿った議決権行使をせざるを得ないという事情もあり、このガイドラインは日本の金融市場で浸透しているといえる。PFAをはじめとした公的年金は同様の動きをしているため、各公的資金の運用資金量が増えれば、企業側は「モノ申す株主」への対応に苦慮することになる。このPFAのこのガイドラインは、カルパースをはじめとした「モノ申す外国人株主」との情報交換を長年に亘り行い、時流にあわせて修正を重ねてきたものである。多くの外資系のファンドや議決権助言会社の考え方も大筋で一致してきた。厚生労働省傘下の年金基金連合会の一連の動きは日本企業に対する政府側の経営改革のメッセージであり、外資系の株主だけが過激な要求をしているとして特別視されることはなかろう。
(2)個人株主
民間の大手IR会社の調査によると、今年の株主総会で個人投資家の80%近くが議決権行使に関心があるという結果が出ている。東京証券取引所などがまとめた2007年度の株式分布状況調査では、個人株主の増加ベースは鈍化しているものの、延べ人数は過去12年増加傾向である。この調査では「貯蓄から投資」への流れの中で、個人株主は保有する銘柄の議決権行使をする意識は高まりつつあり、投資家としての考えで議決権行使する傾向が出てきたという。また、別の民間調査によると、今年6月の株主総会では、個人の67%が議決権を行使したという。個人株主の反対が多かった項目は、役員報酬、役員退職金、ストックオプションなどであったが、取締役や監査役の選任についても反対票が多くなりつつある。「モノ申す」個人株主は長期保有方針が多く、かつ経営結果を厳しくチェックする個人株主も少なくなく、株主総会でこういう株主が増加すればするほど、その議決権の動向が重要になる。このため、今後会社側は機関投資家とは異なる議決権行使を行いがちな個人株主の対策にも時間をさかれることになろう。
(3)外国人株主
外国人株主は株式保有比率で約30%、株式売買高で約60%を占めるようになり、その存在感は年々高まり絶大なものとなりつつある。外国人株主の範疇の中には、日本から海外へ移籍して「外国人」名義で株式売買をしているものもいれば、海外の運用会社が「日本人」の指示で投資活動をしている場合も少なくない。このため統計上の「外国人」株主の中には日本人の指示に基づいて議決権をしている株主も少なからずいる。しかし、ここ数年来、純粋に青目の外資系投資ファンドが短期売却益狙いとはいえ、日本の企業経営の旧弊を打破し、株主価値を上げようとするエネルギーと執着心から、従来の日本の株主とは比較にならないほど株主活動を活発化させ、企業経営に影響を与えてきた。今年も外資系ファンドが大株主となって、役員選任、増配、買収防衛策などに「モノ申した」ため、一部企業ではその対応に奔走したところが見られた。特に今年の株主総会で注目されたのは、外資系ファンドのステイール・パートナーズとチイルドレン・インベストメント・ファンド(TCI)である。他の機関投資家や個人株主に呼びかけて、アデランスの社長の取締役再任を阻止したステイール・パートナーズは、新しい株主活動の動きの魁といえよう。
また、米系の議決権行使助言会社ISSは、2008年2月に社外役員の再任議案の評価基準を制定し、今年は取締役会への出席率が75%以下の場合は「反対」を海外投資家に助言した。更に、カルパースと英系鉄道年金は共同出資で日本事務所を2007年11月に開設し、投資先企業に手紙を発信して「会話」を開始した。
前述の通り、外国人株主・投資家はここ10年来、市場における株式の売買総数、日本株の株式保有比率などでその存在感をジワジワと高めてきており、ガバナンスに係わる主張でも着実に日本経営に少なからぬインパクト与えてきた。この傾向は国内の個人株主などの同情を得て一段と強まりこそすれ弱まることはなく、ファンドを中心に来年もアクテイブな株主活動を行うと見られる。
(4)持合株主
買収防衛策の一環として安定株主を確保するため、企業内の「従業員持株会」の活発化と事業会社や金融機関との間で長期的に相互保有する「株式持合」の傾向が復活の傾向が見られるようになった。従業員に対する会社側の「補助金提供」の持株会とともに、企業が「自己資金」で依頼先企業の大株主になる企業が増えている。株主持合に関しては、外資系ファンドや外国人株主はこれらの資金が長期にわたり低リターンのまま社外流失されていると非難してきた。つまり、本来、これらの資金は株主価値増加のために設備投資などに使われるべきものなのに、会社提案の議案に対して「賛成」の議決権行使をすることとなっているとして、海外では見られない「日本的慣行」として批判してきた。買収防衛策のための株式持合が今後活発化し、会社の意向に沿う株式保有比率が過半数となれば、そういう企業の株主総会は活性化せず、株主価値を高めるための諸策を提案することも難しくなり、外国人投資家・株主は失望しよう。
なお、従業員持株会の加入社員が退職時点で持分の議決権株を渡されて「OB株主」となって当該会社の株主総会に積極的に参加して、発言するケースは電力、電気、鉄道など多く見られる。
3.露呈した「お家騒動」
株主総会は純粋に会社経営面での株主重視策や株主との対話が重要なテーマになるとは限らない。総会を契機に経営者自身の保身、経営トップの確執、創業者との対立など、様々なドラマが外部に露呈される場合がある。以下は今年の株主総会で表面化した社内事情の一部であるが、投資ファンドが直接的に関係した事案まだない。 (1)富士通
副社長のO氏は、同社と無関係な財団の理事長に就任していたとして退任させられたが、富士通の株主総会に、同副社長は「辞任でなく解任であった」とする質問状を事前に提出されていたため緊張感があった。6月23日、新横浜のホテルで1300人が出席して行われた総会において、同社のK社長は総会の冒頭、副社長から「質問があった」ことを説明、「O氏が就任した財団が偽造手形問題に巻き込まれた。会社の業務と関係ないところで財団に係わり、道義上の責任から辞任を求め、辞任届を出してもらった」と経緯を説明し、株主の了解を求めた。同副社長は当日欠席したため、今後社内外でどのような反撃にでるのか、あるいはこれで終息するのか注目される。
(2)荏原製作所
当社は元副社長が2006年7月に行った32百万円の不正支出が2007年4月に発覚し、当時の社長は引責辞任した。同社の社外監査役O氏は当時の元副社長による上記の問題の調査が不十分として、2008年3月期の事業報告に「経理帳簿の虚偽記載を思わせる重大な疑義がある」として署名捺印をしなかった。このため、当社の計算書類は6月27日開催の株主総会では報告事項から決議事項として取り扱われることとなった。
O氏が指摘した疑義は、2000年から2006年にかけて同社が販売代理店に支払った手数料関係である。販売代理店には受注獲得の有無にかかわらず営業費用が発生する。これは販売の実態がなくても発生し、これまで販売手数料として処理してきたが、正確には業務委託費として計上すべきで「費目処理の違い」という指摘点である。O氏が主張したのは本件に係わる取締役の調査が不十分で、調査にも協力しなかったという不満がある。当社は6月27日に都内で株主総会を開催し、2時間かけて7人の株主から質問をうけた。冒頭、社長はこの計算書類の件と別の談合事件に関連して「株主にご迷惑とご心配をかけました、今後コンプライアンスの企業風土を根付かせる。」と社長が陳謝し、了解を得た。
(3)ノーリツ鋼機
ノーリツ鋼機は、最近ライバルの富士フィルムなどと業務提携を進めてきたが、42%の株式を保有する創業家側はライバル企業との急接近に懸念を示してきたため、株主総会の動きが注目されてきた。
株主149人が出席して6月27日和歌山市内のホテルで開催された。会社側が提案した副社長の社長昇格人事を含む5人の取締役を選任する会社案が50%弱の議決権を集めた創業家の反対で否決された。逆に創業家側は事業経験豊富な他社の元社長経験者を含む3人の取締役を選任する人事案を修正動議として提出した。議長から修正提案の理由説明を求められた創業社側の代理人は「企業価値の向上にふさわしい候補者」などと回答し、結果的に可決された。総会は1時間たらずで終了した。経営方針が大株主の創業家と対立した異例の株主総会となった。
(3)日本ハウズィング
マンション管理大手の日本ハウズィングは、当社を買収しようとした原弘産の「買収防衛策を発動しないように」という株主提案を否決した。当社の株主総会は都内で約150人が出席して行われ、4時間に亘る質疑応答の末、原弘産側への賛成票は45%と過半数は得られなかった。原弘産側は当社の株式をただちに売却せず、日本ハウズイング経営陣の公表した事業計画の達成ぶりを今後チェックすると言明した。
(3)北野建設
6月27日長野市で行われた北野建設の株主総会で、2007年6月まで会長兼社長として40年以上同社のトップを務め、当社を長野県内最大の建設会社にしたK現社長の父親を、取締役に選任するよう求めた株主提案は否決された。
現社長は父親を、高齢を理由に非常勤最高顧問に退くよう人事を決めていた。
4.コンプライアンス問題
(1)五洋建設
五洋建設の株主が元役員ら6人に、自民党長崎県連への献金が談合の温床となったとして献金2億2,000万円を会社に返還するよう求めた株主代表訴訟は、5月30日東京地裁の和解の条項で「献金中止」が組み込まれ、当社はコンプライアンス強化をすることになった。公共事業を主体とした建設会社にとって、株主側勝訴に近い「献金中止」という和解勧告は、今後の事業獲得のための営業展開の根本にかかわるものでもあり、株主総会を前にして建設業界を中心に波紋が広がった。この司法当局の判断は、たとえ少数株主の提案の内容が企業の業績の不振を招き、他の多くの株主に不利になるものであっても、公共の目的のために如何に下されるべきかという新たな課題を提供したといえよう。
(2)スルガコーポレーション
東証二部上場のスルガコーポレーションは、取得した商業ビルの入居者立ち退き交渉をめぐり、反社会的勢力に近いとされる弁護士法違反に問われた業者との関係が表面化したため、金融機関が融資に消極的になり、不動産取引も困難となったため、6月24日に民事再生法を申請した。当社の定時株主総会は6月26日横浜市のホテルで開催され、6人の株主から厳しい質問をうけた会長は「株主の皆様にご迷惑をかけた」と陳謝し同日付で退任した。報道によると、当社は暴力団や弁護士資格のない不動産仲介業者を使った立ち退き交渉依頼などで多大の利益を上げてきたと言われるが、7月25付で上場廃止が決まっている。しかし、その後米国の有力インベストメント・バンクは当社の株式を市場外の取引で買増し、発行株式の約10%を保有していることが7月11日に判明した。同様に英資産運用会社が同社株を約9%保有した。この段階で保有の目的は当社が首都圏に保有する不動産の純資産価値が狙い目と言われる。ハゲタカの眼力にはまだまだ日本人の目線では及びそうにない。
(3)真柄建設
北陸3県を営業基盤とする真柄建設は、6月27日金沢市の本社で株主総会を行い、創業一族の代表取締役社長は一連の不正経理の不祥事で謝罪するとともに、その責任を取って退任しメイン銀行の北国銀行から新代表取締役をむかえた。これは当社の大阪支店長が不適切な経理処理を、2005年12月から数期に亘り行っていたことが判明し、有価証券報告書虚偽記載が継続的に行われたと証券取引監視委員会から指摘をうけていたことに伴うもの。2008年3期の事業報告には「事業継続」のリスクがあるとの記述や、会計監査法人の監査報告書にも当社の継続企業の前提に重大な疑義があるとの指摘がされていた。案の定6月末、請負主の倒産などにより請負代金の回集が不能になったとして、総会後わずか6営業日後に大阪地方裁判所に民事再生手続を申請し受理された。かねてから指摘されていたコンプライアンス体制の不備と社内監視体制の機能不全がもたらしたもので、事態を予想してか株価は織り込み済みで推移していた。
なお、金融庁は8月1日に2005年9月から2007年3月まで有価証券に虚偽記載があったとして、当社に金融商品取引法に違反したと2500万円弱の課徴金支払いを命じた。
5.厳格化傾向の監査役・監査人
監査役はこれまで株主・債権者のために取締役の業務執行を監視することが求められていたが、会社法の制定に伴いその責任と権限は一段と強くなった。2008年3月決算会社で監査役の新たな動きとして次の各社事例がみられた。
(1)厳しい監査役
●昭和ゴム
監査役Y氏は2008年6月18日、当社個人株主から社長ら取締役6名を相手取り98百万円の支払い請求に係わる提 訴請求を受け、検討の結果、千葉地方裁判所に取締役の責任追及訴訟を起こした。これは、上記の取締役が定款に記載された業務でない輸入自動車の販売を行い、誤った与信供与や不適切な回収方法により多額の損害をあたえたこと、更に、光ファイバー関連事業でも投融資の判断を間違え数百万円の損失を計上をしたためである。これは、取締役の善管注意義務、忠実義務違反という任務け怠であったと指摘された。Y監査役が監査役報告書に記載した意見は:
@輸入自動車の販売は定款にも無く強行し、誤った与信を供与、不適切な回収方法により当社決算において1181百万円の損失計上に至った。
A光ファイバー関連事業は十分なフィジビリテイー調査なしで実行したため、950百万円の損失計上となった。
B取締役の善管注意義務と忠実義務違反という重大な任務のけ怠があり、リスク管理体制、就中与信管理体制に不備があったため、早急なるその対応が望まれる。

●Jパワー
英投資ファンドのTCIは2008年5月2日、水力発電や電気料金の引下げなどで営業利益を約60百円減少させたとして、取締役全員に対し60億円の賠償金の支払いを求める提 訴を行うよう同社の監査役会に求めた。当社の監査役会は慎重に検討した結果、提 訴の内容は事実と異なるとして監査役全員一致で提 訴は行わないこととし、TCIに連絡した。今回の当社の監査役の見解はこの種の「株主」に対して、どこまで中立的な立場で、どんなポイントを中心に具体的に、どのくらいの時間をかけて審査したかは公表されていない。TCIは短期でキャピタルゲインを狙う投資ファンドとして欧米でも非難されているものの、株主・債権者のための権利保全のために監査役は如何に経営監視をしたか、上場企業の監査役(会)として株主への対応に係わる透明性が問われよう。

●荏原製作所
既述の通り、当社の社外監査役O氏は元副社長による不正支出問題の調査が不十分として、2008年3月期の事業報告は疑義があるとして承認しなかった。このため、当社の決算は株主総会で報告議案から承認義案として取り扱われることになった。報告議案が承認議案として取り扱われるのは極めて異例なことである。会社側は株主の承認を得る必要から本件決議したものの、監査役との主張は対立したままでのため、形骸化が問われてきた監査役制度のあり方と日本のガバナンスに監査役がどうかかわるべきrという課題を提供したため、今後の動きが注目される。
なお、株主総会で議案が無事可決終了した際、通常、全監査役が他の役員と同様に出席株主に対して「感謝の気持」で黙礼していたが、一部の監査役には「株主にお礼のお辞儀」をする意味が解らないとして頭を下げないケースが見られるようになりつつある。 この動きは日本の監査役は誰のために、何を目的に就任しているのかという原点を問うており、会社経営陣、株主、監査役の相互の関係について新しい議論を呼ぶ起こすことになろう。
(2)警告する監査法人
企業の監査人は業績悪化などでリスクが存在したり、存続が困難になる可能性が生じた場合、監査報告書にそのリスクについて明記することを求められている。特に、企業の継続に係わる疑義がある場合は、有価証券報告書に「継続企業の前提」の注記をする。2008年3月期の有価証券報告書や事業報告でこの注記を掲載した企業は104社にのぼり、前年に比して30%以上増加した。特に情報通信、建設、小売り、卸売りの業種で多く、株主・投資家にはっきりと注意喚起する事例が多くなった。会計監査法人は監査先企業の赤字や営業損失の実態を出来るだけ把握することに努めているが、重大なリスクがあると判断しても会社側が開示することに難色を示す場合はその会社の監査を辞退するケースも散見される。
●アジア・メデイア
中国本土系企業の東証上場第T号として注目されたマザースのアジア・メデイアは、当社の創業者で前経営者が、当社の子会社が保有する中国国内の銀行預金を取締役会の決議を得ずに担保権を設定し、私的に流用したことが発覚したと6月3日に公表した。6月23日開催の株主総会で新経営体制をスタートさせたが、監査法人からは経営者の公私混同やガバナンスの問題があると指摘され、2007年12月期の財務諸表に監査意見を表明してもらえなかった。このため、当社は7月25日付で整理銘柄に指定されたが、同月31日に2007年12月の有価証券報告書を提出した。ただ、監査意見は不表明であるため東京証券取引所は「監査法人が適正と認めていない」として、同社を引き続き監査銘柄に指定すると同時に、当社の前経営者(CEO)に対して会社の資金を中国内で私的に流用したとして、投資家に代わって責任を追及するため北京市の公安当局に8月1日に刑事告発した。
なお、東証は8月19日に当社を9月20日付で上場廃止すると発表した。この発表により、2007年7月に2055円の最高値をつけた当社株は売り注文が殺到し、同日6円で取引が終えた。東証側は「言語、地理、文化が異なる外国企業には厳しい審査をしてきた」といい、監査法人は「IPOの時点で特段の問題点検出されなかったし、厳格に対応した」と説明した。

●YOZAN
移動体通信のYOZANは、6月27日開催の株主総会で事業計画、連結決算書類並びに会計監査人と監査役会の監査結果報告書の件について審議継続の動議が出されて可決され、7月30日にあらためて株主総会の継続会を開催する予定であった。しかし、会計監査法人プレインワークは、営業債務の返済策の対応並びに経営計画の策定が未了のため監査継続が困難とし、7月22日に監査人を辞任した。その後、会計監査任が就任しない「監査難民」となり、2008年3月期の有価証券報告書を法定期限の6月30日をすぎても提出が出来ず、9月1日付けをもってもジャスダック証券取引所の上場廃止になった。同取引所は有価証券取引報告書の提出遅延をもって上場廃止は同社がはじてという。

●カウボーイ
2008年3月の時点で債務超過となった当社は、事業再生、再構築や業務提携・資本提携などを模索をしてきたが、新日本有限責任監査法人から監査意見表明のための合理的な基礎が得られないとして半期報告の監査意見の表明を得られなかった。このため、ジャスダック証券取引所の上場廃止基準に該当するおそれが出てきた。

監査役も監査人も従来の「馴れ合い的監査」の時代は過ぎ、「厳格監査」の要請が次第に高まりだした。
2009年3月期の四半期報告書の提出が8月14日の期限内までに出来なかった上場企業が8社あったが、その理由は会計監査人の交代に伴う手続上の混乱等が多い。上記の通り四半期報告書が遅延すると、対応次第では上場廃止になる可能性があるが、2008年8月に遅延が判明したのは、東証一部ではシーズクリエイトとゼファー、東証2部では井上工業とセブンシーズHD、ジャスダックではキョーエイ産業、三平建設、プラコーなどがある。
これは、2008年3月以降の決算企業は従来の証券取引所のルールによる「四半期開示」とは異なり、監査法人の簡易監査を毎四半期ごとに受けることになったため、監査法人は四半期決算に対して自ら納得しないと意見表明に難色を示すことになった。上場企業はヒト、モノ、カネを十分かけないと内部統制の実効性が問われる時代になったといえる。
6.ファンドの動きと課題
(1)昨年の外資系ファンド
昨年は米ステイール・パートナーズ、米ダルトン、米ハービンジャーズ、ブランデス、セーフハーバーなどが日本企業に対して、役員の退任、情報の開示、増配の要求、買収防衛策の反対など約30件の株主提案を行って経営側に緊張感を与えた。特に、ブルドック・ソースの事例のように司法の判断を仰ぐケースにいたるなど株主総会も新しい事態をみせた。しかし、ステイール・パートナーズの評価は別にして、同社の長期保有の株主にとって、ブルドックの外資系ファンドに対する対応の結果、その後の株価が最高値から5分の1に低下したままの事実はどう評価すべきか。また、昨年のステイール・パートナーズに対する司法の判断が、その後の外国人投資家の日本株投資を敬遠する契機となった事実を、市場関係者がどう評価しているかなど、多くの課題と問題点を提供してくれたと言える。

(2)注目されたステイール・パートナーズ
昨年の株主総会において、ドトール、フジテック、シンニッタン、北沢産業など7社で見られた議決権行使の争奪戦は、今年は一部の企業を除いて限定的であり、又、外資系ファンドの株主提案も前年度比件数において半減し、約15件となった。株主提案の中身も役員改選や増配要求などが主なもので、目新しい提案は少なかった。ただ、5月開催のアデランス・ホールデングの株主総会では、米系投資ファンドのステイール・パートナーズが当社の現経営陣の再任に反対し、他のファンドにも呼びかけて議決権行使を行い同社の社長らの取締役再任をストップさせた。この動きは、単独のファンドでも他のファンドと一緒になって議決権の過半数を確保する「多数化工作」が、米国で見られるように日本においても現実としてあり得ることを示した。この結果、アデランス・ホールデイングは取締役会に欠員が生じ、8月9日に臨時株主総会を改めて開き、ステイール・パートナーズが推薦する2人の社外取締役を含めた経営陣の入れ替えを行った。アデランスの事例は日本の経営者にとって、顔がはっきりわからないモノ申す「投資ファンド」などの保有比率が高くなった場合、業績や株価に不満のある株主に対してどのように説得させるか、という新しい課題を提供したと言える。

(3)良いファンドと悪いファンド
ここ数年に亘り、様々な株主提案を行うようになったファンドは、実態を開示しないこともあり、その属性や投資パターンの把握は難しい面がある。どのファンドが良いか悪いかは、判断する者の立場で異なる。つまり、投資される企業経営者、賛同する他の株主、規制する当局などにより、ファンドに対する評価の温度差がある。
企業業績が低迷し株価も同業他社比見劣りしたままの企業経営者は、企業買収防衛策に汲々として、モノ申す株主に警戒している経営者は、この種のファンドを敵視する傾向がある。一方、この種株主の増配要求や経営改革の主張が株価上昇の契機になり得ると期待している個人株主などは、主張に同感する場合が多いと思われる。ただ、株式市場を規制する当局から見れば、既存の体制や既得権利に大幅な変更や改革をもたらすと思われる主張には、株価にプラスとなっても、現存の法規制を盾にこの種ファンドには否定的な動きをしざるをえない場合が多い。 今年のファンドの動きは、国際化したわが国の資本市場において、外資系ファンドがどういう 位置と役割を示しつつあるかを示しはじめたといえる。
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