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善球・悪玉投資ファンドの見分け方
(2008年11月09日)
1.今年の株主総会の主役は
会社法全面適用後2回目の株主総会が今年行われた。毎年株主総会シーズンが近づくと「総会を仕切る」群像が興味本位にマスコミで報じられてきた。2006年は村上ファンドによるニッポン放送買収、2007年はスティール・パートナーズのブルドックソース買収とこれに伴う企業防衛策や増配などの一連の株主提案などが関係者の強い関心を集めた。今年の役者は5月29日開催のアデランスの株主総会で社長はじめ取締役7人の再任を否決させた「スティール・パートナーズ」とJパワーの株式買増しで「日本政府VS外資系ファンド」を演じた「チルドレンズ・インベストメント・ファンド」(以下TCIという)であった。
ひと昔まえ上場各社の株主総会の担当者は、総会が近づくと「総会屋対策」に翻弄され、早くから弁護士事務所の指導の下に株主総会での想定問答集を目を赤くして作成をした。また、社長以下役員全員で総会前日まで入念なリハーサルを行うのが常態化していた。警視庁も6月初めから総会の集中日まで「株主総会特別警戒本部」を設置した。多くの3月決算会社においては、総会が無事終了するまで6月はツユ空のように重い空気が社内に漂っていた。
2000年に入ると国際化と情報化が一段と進み、外国人株主の構成比率が高まるに伴い、これまで日本で見られなかった「モノ申す株主」が登場した。同業他社比、業績が不振で株価が低迷傾向の上場企業の中で、古い経営体質ながら株価の上昇余地のあると思われる企業に対して、投資ファンドが「株主価値上昇」を標榜して増配要求、社外役員の選任案件などに関連した活発な株主提案を行うようになった。今年の株主総会で注目されたのは、1円でも株価アップを狙う貪欲な各種投資ファンドとこの攻勢に緊張した会社側との攻防のヤリトリであった。
2.すべてがハゲタカ・ファンドではない
投資ファンドは1920年代に米国でミューチャル・ファンドの一種として発足した。これは投資家が資金を出し合って、まとまった額にして株式を購入し、株式の平均的利回りとの相対的比較において、株市場全体が下落してもその下落率ほど利回りがマイナスにならなければよい、との発想で運用されてきた会社型ファンドである。このファンドは金融当局による監視・規制と情報開示により投資家の保護にも力点が置かれてきた。このため株式投資に係わる様々のサイエンスとアートを、時代とともに米国の金融市場だけでなく、欧州や日本にも与えてきた。 その後、グローバル化した金融市場のIT化と投資参加者の多様化に伴い、ファンドは設立目的、投資対象、運用方法、投資家のタイプ等々により、様々な種類のファンドが登場してきた。投資ファンドを投資対象の形態と投資顧客別に区分すると株式・債券だけでなく、不動産、コモデイテイー(商品)、ぶどう園・森林などの事業、ベンチャー、資源、インフラ事業などおよそキャッシュ・フローが発生する案件が対象になり得る。
ファンドは投資信託、投資(バイアウト)ファンド、不動産投資ファンド、商品ファンド、ヘッジファンド、国家ファンド、官民共同ファンド、その他目的別ファンド等様々なものがある。 今日内外で注目されるのは、受託者責任の一環として「議決権行使」に強い関心を示し、それを梃子にして発行体(企業)の経営に関与する投資ファンドである。 通信手段のグローバル化、進行する規制緩和、国際化するコミュニケーションとIT化等により投資ビジネスは国境がなくなった。また、膨張を続ける投資マネーはより多くの利益を追求しながら、様々の金融市場で運用先を探している。
肥大化した投資資金は株式市場にも影響を及ぼすが、会社経営の面からみて議決権行使には消極的な純投資のファンドにもあれば、議決権行使を積極的に行使し、場合によっては経営に関与するアクテイビスト・ファンドもある。
「ハゲタカ・ファンド」とか「モノ申す株主」として特異に見られるのは、後者のファンドであるが、良いファンドか悪いファンドかの見方は企業側、投資家、市場関係者、行政当局によって温度差があるといえる。
2007年に施行された金融商品取引法(金商法)により、業としてファンドを特定多数の顧客に対して販売する投資信託、不動産投資ファンドなどの運営者も、投資ファンドに係わるあらゆるリスクについて、投資家保護のため十分説明することが必要になった。また運用者のコンプライアンス体制も一段と強化することが求められている。こうした中、銀行の審査能力を上回る分析力・情報力を駆使する再生ファンドやバイアウトファンドなどは、リスク・テークをする投資ファンドとして、金融市場での存在感も高まってきた。ファンドは利用する側にとってリスクを理解したうえで積極的なプラスのメリットを利用する「良いファンド」もあれば、ファンドに投資された上場企業にとって、株主権利を主張されその対策に困惑させられる場合は「歓迎されざるファンド」にもなる。
3.企業側から見たファンド
一方で良いファンドと見られても、利害関係によっては反対の見方をすることもある。発行体(企業)にとって良いか悪いかは大きく分けて二つの課題がある。 第1は「議決権行使」に際して企業側が提案する議案に異議を唱えず、黙って「賛成票」を投じてくれる与党株主といえるファンドである。つまり、買収防止策、社外役員選任、配当、役員報酬の開示などに一切意見を述べず、会社側の提案に従順に「賛成してくれる」ファンドである。この種の傾向をよしとするのはサラリーマン型社長が多い重厚長大型の企業に多く見られる。しかし、こうした経営者はファンドが唱える経営改革や生産性向上のための合理化策などは部下に任せ、株主利益や企業価値向上より、自己保身に注力する傾向が見られる。こういう企業は株式持合や企業防衛策には熱心であるが、投資ファンドが大量保有したと判明すると社内に緊張感が走り、そのファンドの動きに必要以上に警戒する。一方経営に自信のある経営トップのいる企業は、総会でどのようなファンドや株主が、如何なる株主提案や発言をするにせよ、独自のキチンとした経営哲学で論破することができるよう打つべき手は打っている。同時に、合理的な経営をしていれば、株主に対して会社側の提案に説得させるパワーがある。そういう経営トップであれば株主は平等であり「良いファンド」、「悪いファンド」という区分けをする意識は低いといえる。
第2は企業から見て良いファンドと思われる「バイアウトファンド」である。この中にはLBOファンド、MBOファンド、企業再生ファンドなどがある。これは企業価値を高めるため、リスク資金を中長期にわたり供給してもらい友好的に買収するファンドである。企業価値を高める資金は銀行借入、優先株発行、増資などがあるが、事業リスクを見極めてリスク資金を供給してくれるファンドは会社側にとっては企業に経営改革と規律を与えることになり、ステークホールダーにとっても事業継続の観点からプラスとなる面がある。ただ、投資目的が不明で、その実態がはっきりしないアクティビスト・ファンドは、短期的に株価上昇の一因になっても、長期的にはその評価は難しいといえる。
4.投資家から見た投資ファンド
アクティビスト・ファンドは、投資先企業に対しては様々な経営に関する「情報開示」を強く要請し、場合によっては経営方針に介入する場合も少なくないが、その一方で、投資家側自らの投資方針、投資目的、経営関与の場合のリスクの認識などについては開示したがらない。このため、投資期間をせいぜい3年―5年の中期保有をターゲットとし、売却益が確保でき次第EXIT(売却)するファンドと見られている。数年保有した結果、株価上昇が思わしくなければ様々な資料をベースに経営に関与することがある。こういう投資ファンドが狙うのは、ROE、配当性向、資産培率等が同業に比較して低く、また、企業価値向上やコーポレート・ガバナンスについても真剣に取組まないため、数年にわたり株価が低迷している企業である。総会が近づくと、株価上昇を期待して増配などの株主提案を正面から行い、メデイアにも発表する。場合によっては役員選任に関して委任状争奪戦まで展開する株式投資ファンドもでてきた。短期的に売却益を得ようとする、いわゆる「タダ乗りする株主・投資家」にとっては、そのファンドの評判がどうであれ、利益が達成されれば「歓迎される」ファンドとなり得る。国内の年金基金・アセット運用会社・生保などの行儀の良い機関投資家は、近年企業のガバナンスへの注目度を高めているものの、組織の生い立ちもあって、この種のアクティビスト・ファンドには同調しにくい面がある。どの投資ファンドも背後に出資者たる顧客がいて、彼らは運用益を約10%以上にすることを目標にしている場合が多い。アクティビスト・ファンドは投資分析と投資手法がファンドごとに異なり、伝統的な運用会社とは銘柄選択の切り口が異なる。例えばガバナンス・ファンドの如く、経営側にガバナンス関連のプレッシャーをかけることで経営陣に増配、自社株買付、買収防衛策の撤廃、社外取締役の選任などを強く迫り、株価上昇のために最終的に経営に関与しようとするものもある。また、委任状争奪戦になる事例もある。2007年以降の株主総会ではスティール・パートナーズ、TCI、セーフハーバー、ダルトン、ハービンジャー等の海外のアクティビストがわが国でも話題となり、一部の個人投資家も株価が短期的に上昇すると期待して、これらに関連した銘柄の買いに動いていることは容易に考えられる。
経営側にとって、この種のアクティビスト・ファンドは「招かざる株主」であっても、多くの投資家にとっては、中長期的にこのファンドの働きがけにより、企業の株価があがれば、投資先企業の経営改革に向けた警鐘にもなり、ひいては日本の上場企業の株主重視の風土作りの一助となり、歓迎であろう。つまり、社外役員の導入など、アクテイビストの株主提案の中には日本の伝統的経営風土を批判し、米英の経営レベルへの改革を求めるものも多くある。経営側からは迷惑であっても、他の一般株主投資家には株価向上をもたらす契機にもなり、プラスの面があるといえる。ただ、メディアを利用して経営関与を主張し、単なる株価値上げを狙って売り逃げするような事実があれば、「演技であった」と判明し、アクティビスト・ファンドが「悪玉」と言われることになろう。ターゲット企業の株式の大量保有を公表しても、経営の実態や事業の専門性やリスクについて十分理解しないまま、一方的に株価ツリ上げのための施策を大声で公表する短期保有者であれば、市場はマネーゲームと見なすか、「グリーン・メイラー」として見下すことになる。小糸製作所の株式買収を試みたブーン・ピケンズを尊敬する者は少ない。アクティビスト・ファンドとして、日本株の保有量が多いのは、スティール・パートナーズリバティ・スクウェア、タイヨウ・ファンド、シルチェスター・インターナショナル、ブランデス・インベストメント、TCI、いちごアセット・マネジメント、ダルトン・インベストメント、エフイッシモ・キャピタル・マネジメントなどがあげられる。
5.当局から嫌われるファンド
(1)日本では
今年話題になったのは日本政府の英系ファンド:ザ・チルドレンズ・インベストメント(略称:.TCI)のJパワー株式買い増し中止勧告である。これは2006年10月にJパワー株を5.07%取得し、その後買い増して2007年3月には9.9%の株保有者になったTCIが、同株が下落をつづけたため同年11月に役員報酬の改正、株式持合の解消、社外取締役の受け入れなどを要求したが拒否され、これにこりずにJパワー株の20%の買い増しの事前届を2008年1月に当局に提出したが、結果的に政府に拒否されたもの。 政府側の拒絶の背景には、この種のファンドは株主価値を高めるために投資先企業に積極的な行動を取り、公営企業の経営に関与する場合が考えられ、また、委任状勧誘など予想外な行動を取り得ることもあり得ること、更に「株式の追加取得や株主権の行使」でJパワーの発電事業や基幹設備の計画・運用維持にも影響を与え、電気の安定供給にもインパクトを及ぼす可能性もあること等というものである。
政府の上記の見解は、外為審(関税・外国為替等審議会)を3月に開催させ、4月中旬に外国貿易法に基づき、「安全保障上の配慮が必要」としてTCIに対して株買い増し中止の勧告を出したものである。
この政府決定は外国人投資家・株主には日本の国益に係る一部の上場株式は投資対象となりにくいとの印象を与えた。

(2)欧米では

TCIはドイツ証券取引所の買収案件にも深く関わった経緯もあって、英「フィナンシャル・タイムズ」は2008年6月13日付の紙面で、TCIをコーポレート・レーダー(買収屋)と評し、また、米「ウオ―ル・ストリート・ジャナル」も、TCIが米国で大手鉄道会社CSXの株式をブラジルのヘッジ・ファンドと共同で8.7%保有して、同社の社外役員に5名選任するよう要請している動きについて、一部の政府高官とメデイアが懸念を示していると報じた。
また、英国金融監督庁は、増資に際してヘッジ・ファンドなどが内外の機関投資家から株式を借りて「カラ売り」を仕掛ける場合、投資先企業の発行株式総数の0.25%以上を関与した場合は、当局に@投資家名Aカラ売りの対象株式名B投資金額を開示させるとの規制を出した。これは、ヘッジ・ファンドなどが金融機関の株式を狙い打ちして、株価下落の仕掛けた事例があったため、その動きを防ぐためと言われている。
日本の財務省や経済産業省がJパワーで下した結論は、ファンドの属性によっては、日本は国益を理由に外資を歓迎しない動きがあるとの見方が海外に伝わり、日本の規制当局にガバナンス関連の後進性を抱かせ、外国人投資家を失望させる一因となったと伝えられたものの、海外でもこの種のファンドの動きについては神経質になっているは注目される。

(3)ダボスでは
2008年1月の世界経済フォーラム年次総会(タボス会議)で、サブプライムローンで資本不足に陥ったシティー、メリルリンチ、UBSなど欧米の国際的金融機関に対して、中近東、ロシア、アジアの国家ファンド(以下、SWFという)が巨額の資本投資を続けその存在感を高めていることに関して、米国、ドイツなどから強い懸念が示された。このSWFというファンドの規模は、米系インベストメントバンクの調査では現在3兆ドルあるといわれるが、原油高等などによりますます増加傾向にあり、5年後には約20兆ドルを越えるという。
SWFの属性、原資に違いはあっても、このファンドが他の株式関連ファンドと異なるのは、その投資額が巨額であることに加え、戦略的に先進国の主要な産業分野に集中して投資する傾向があることである。政府が懸念しているのは、これらのファンドを有する国々との情報交換が少なく、またファンド自体がどういう投資方針で、何を目的として株式や不動産に投資するかはっきり開示されない面が多い点である。日本でも、今年6月にアブダビ首長国の国家ファンドが神戸市の医療特区に完成する高度医療の専門医療病院に100億円投資し、日本の先端産業の育成に貢献する事例や、シンガポールの政府投資公社(GIC)が2008年2月に都心の高級ホテルを770億円で買収したり、2007年3月に福岡の商業施設を1,000億円で買収などSWF投資の事例がある。 政府当局は、現段階ではこの種のファンドに対して警戒しがちであるように見受けられるが、投資しやすい環境を整え、市場の公正性と開かれた市場をSWFにアピールして日本経済の国際化と活性化を増大する契機とすべきである。

(6)規制されるヘッジ・ファンド
従来から一部のヘッジ・ファンドマネジャーは、「ヘッジ・ファンドによる原油価格の上乗せ効果は70ドル以上ある」と認めているとの報道もあり、市場関係者などから原油や食糧の価格高騰の大きな原因の一つに、ヘッジ・ファンドや商品ファンドなど実需と関係ない投機筋が深く係わっている、との指摘がされてきた。日本では、投機筋に対して具体的な行政面の規制の動きは見られないが、米議会はエネルギー・食糧の価格吊り上げで、度を越えたファンドの動きを非難して、規制する動きが具体的にでてきた。
今年6月24日、米上院国土安全保障・政府間問題委員会において、これに関連した投機規制法案が提出され、また、米民主党の有力議員も同時期に、商品先物取引委員会に市場監督強化を含めた投機規制案を提出したという。これらの規制案が何時具体的に成立されるか現段階では不明であるが、「暴力的に高騰した商品」が世界的なインフレの元凶の一つとして、ヘッジ・ファンドや商品ファンドに鋭い非難の目が注がれだしたといえよう。
6.結論:君臨すれども統治しないファンド
世界的に名前の知れた有力ファンドを運用している者の中には、「君臨すれども統治せず」というウエストミンスターのルールを信奉しているように思われる者もいる。これは買収に際して、鉄道、電力会社、空港施設、放送局などの海外の基幹産業であっても、ビジネスに係わる執行役に業務に精通した腕利きのCEO(経営最高責任者)を2−3年の有期契約で雇い、自らは背後からその執行者の仕事ぶりを監視し、結果を「数字」でチェックする。数字が目標としたレベルに到達しない見込みであれば、契約期限を限定するという「警告」を発し、実績が目標未達となれば契約は更新しない。つまり、経営トップを交代させ経営効率の向上に努めさせる。投資事業の本質は冷酷であり、日本人に解りにくい過酷な面がある業務ではなかろうか。 一部の投資ファンドでは、稼いだマネーの一部を恵まれない孤児救済のために慈善事業団体に寄付するというが、これは社会的非難をかわすための「偽善」であるのか、それとも心からの「慈善」であるのか、なかなか見極めが難しいところである。 名前のよく知られたインベストメント・バンクの組成したファンドが必ずしも「よいファンド」とは言えない場合もある。ファンドの良し・悪しは投資家自身が自ら分析力・洞察力を高め、ファンドのリスクを判断することといえよう。
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