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「ガバナンス」不全のアイスランド―国家破綻は誰の責任か?
10月10日、外電(ロイター)は「金融危機に直面しているアイスランドは、ロシアから40億ユーロ(約5400億)の緊急融資を受ける交渉を開始した。また、同国自体は競売会社イーベイに売りに出たが、当日中、最高で1000万ポンドの入札しかなかった」とのニュースを流した。この外電はベタ記事のままで何のコメントをつけ加えていないので、特に後半の入札の経緯や結果についての信憑性はわからない。このニュースで問題とされるのは、何故にアイスランドは金融危機に陥ったのか、その背景に何があったのかということと、この機にロシアがアイスランドに救済の手を伸べる政治的動機は何であるのかという点である。
内部統制力が伴わない規制緩和
金融危機がこれほどまで絶望的な状況に直面し、その責任を質されたアイスランドの中央銀行総裁の言によれば、こういう事態になる前に何度も同国の主要大手3銀行のトップに対して、リスクが非常に高まっていることを警告してきたが無視されてきたという。また、今日の金融危機を招いたと非難されているのは、1991年から1999年まで首相を務めたデビッド・オドソン氏である。彼はアメリカ流の金融システムを採用して成功したアイルランドの金融特区を模倣して、2000年頃からアイスランドも同様のモデルとしては発展させることに着手した。つまり、1991年からオドソン内閣は規制緩和に着手し、その一環として金融市場の自由化と公営企業の民営化をはかり「漁業立国」から「金融立国」へ大きくカジを切った。自ら音頭をとった同国の規制緩和と民営化促進が、同氏の任期の後半には行き過ぎの恐れが見られ始めたため、オドソン氏は大手銀行に対して「レバレッジ(外部負債依存)取引」の規模を縮小はじめとした金融取引のガイドラインの導入、投資規制、自己資本比率強化等を図ったが、銀行側と国民の強い反対があり、更には激しいデモもあったという。当時の政府首脳として銀行トップに対して、欧州大陸の銀行からの借入は短期が多いので長期借入に切り替えるよう要請しても、「悲観的過ぎる」と一蹴され、関連法規の導入やレギュレーションの整備は後手にまわった。その結果、リスクのある巨額の資金調達を海外から調達し続けて、レバレッジを効かせて自国経済の10倍以上の金額にし、「貸金」や「投資」という形態で海外にも運用した。その結果、ベアースターンズやリーマンブラザースの破綻の余波で、海外から資金が通常の銀行レートで調達できなくなると、全欧州の金融市場で一段と高い金利を提示して調達しざるを得なくなった。これがアイスランドの金融破綻を惹起した原点であった。

当時の金融政策の責任であったオドソン氏が今回の危機の経緯について英国のFT紙面で述べたところによると、「大手銀行が政治的にも金融能力的にも発言力が大きくなり、金融システムを統制するはずの政府や中央銀行の規制を無視する動きをするようになり、コントロール機能が発揮できない状況であった」(2008年10月23日付、FT)という。これは、金融・証券業務の拡大・発展のみに目を奪われ、市場動向に伴うリスクや危機管理について十分な人材の配置や組織整備を怠り、国家として行政のガバナンスや内部統制が脆弱化していたと指摘される。さらに事態を悪化させたもう一つ要因は、国際機関との協調や欧州諸国との政府レベルのコミュニケーションが十分でなかったため、今年7〜8月頃から同国の資金調達力が弱くなってから、同国中央銀行が米連銀、欧州中央銀行、イングランド銀行等に資金援助を求めたがいずれも拒絶された経緯がある。
ロシアに依頼している資金援助のカード中身?
9月のリーマンブラザースの破綻後、金融危機の嵐は想像以上の強さと深さで欧州大陸に吹き荒れた。この暴風の到来については、フランスの大手銀行BNPパリバがサブプライム関連に係わるリスクについては早めに警告を発していたが、新興国や経済規模の小さい国々はなすすべがないまま時間が経過した。特にアイスランドの金融危機対しては、英、独、仏などの欧州大国は自国の金融問題の対応に精一杯で他国の救済に手が回らなかった。各国際関係機関などの冷たい対応はアイスランドを国際金融市場から孤立させ、9月になってその救いをロシアに当面の対策として55億ドル(約5600億円)の与信を打診したという。この時点で、ロシアは旧ソ連邦の一員であったウクライナやハンガリーなどの諸国に対しても金融救済の必要性があるにも拘わらず、アイスランドと支援策の打合せに入った。ロシア側も8月にグルジア侵攻に伴い、外貨準備も急減しだした。更に旧ソ連圏内に属していたウクライナ、ハンガリーのみならず、エストニア、ラトビア、リトアニアも今回の金融危機で通貨不安と為替市場の混乱で経済低迷が懸念されている。ここに来てロシア自身も一部国内金融機関にトラブルが発生している模様であるが、今回の資金を駆使することにより、「赤いカネ」で旧同盟諸国以外に発言力を復活させようとしているのはなぜか。

アイスランドの金融救済に手を挙げた背景として考えられるのは、「軍事的戦略」があったとの見方がある。つまり、アイスランドはNATOに加盟しているが、2006年同国駐留の米軍を撤退させたあとの軍事基地がそのままになっていた。ロシアが厳しい台所事情にも拘わらず、この基地をアイスランドから無償で使用する「交換条件」がついているのではなかろうかとの憶測情報がロンドンで流れた(F.T.2008.10.9)。アイスランドに接近することで、北極圏と周辺諸島に係わる経済権益と軍事的メリットをロシアがどのように計算しているかは不明である。ロシアの脅威を排除する計算もあってか、ワシントンのIMFが迅速に行動して、10月24日に至り、アイスランドはIMFから21億ドルの融資を受けた。しかし、同国はこの額では十分ではなく、北欧中央銀行や日本からの資金援助の総額は60億ドル以上になると言われる。こうした中、未だ明らかにされないロシアの資金援助がどういう条件で行われるのか市場関係者は注目している。

この混乱の最中、フランスは金融危機に直面しているフランスの主要企業を救うために2000億ユーロ(約24兆円)の政府系ファンド(SWF)を10月23日に立ち上げた。これは外国からの資金援助を受ける前に自国政府の資金で救済するというフランス方式であるが、外貨準備や政府が保有する「埋蔵金」のタイプのマネーが十分ない小国にとっては参考にならない。
短かったアイスランドが見た夢
アイスランドは9世紀にノルウエーのバイキング達により殖民地化が開始された国といわれている。その後にデンマークからの移民が多くなり、13世紀にデンマーク王の統治下となり1944年に独立。大半が北欧系の人種によって構成されている。同国の現在の人口は33万人で、長らく北極圏の漁業と安価な電力コストを使用したアルミ製錬以外に特筆すべき産業はなかった。このため同国の主要物価は国が決め、関税率も高く、輸出入の規制も伝統的に厳しくコントロールされてきた。1990年代、欧州にみられた民営化の流れに習って、規制緩和と自由化を進め、その一環として銀行の民営化も行われ、大手銀行の幹部に米国の有力なビジネス・スクール出身の若手を「業績連動の報酬」で雇い入れ、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーが行っていきた利益率の高い金融モデルの実現に傾斜しはじめた。最大手のカウプシング銀行はルクセンブルクに現地法人を、ベルギーに支店を設立し、市場より高めの5〜6%の金利でベルジャン・デンテイスト(ベルギーの歯科医:富裕層の俗称)達の個人預金を集めるだけでなく、英国の大手金融機関バークレーやRBS(ロイアル・バンク・オブ・スコットランド)及びドイツ銀行などからも巨額の資金を「銀行間取引」として海外から導入してきた。この流れの一環としてカウプシンクは2006年6月以降、日本でサムライ債を760億円も発行した。本来、新興国の大手銀行であれば自国の重要産業やインフラ整備にまづ融資すべきであるが、融資したのは同国内の不動産開発、保険事業、商業施設、医薬関連のベンチャー投資などに限られ、大半は現在問題視されている「金融商品」関連の投資であったと指摘されている。海外から受け入れた巨額のマネーは長期の固定金利の資金というより短期のカネが多く、しかも調達コスト市場金利に比べ高かったため、ハイリスク・ハイリターンの運用となりがちであったと思われる。また、投資に際しては自己資金の部分は少なくし、借入金を手許資金の十数倍に膨らませたレバレッジ(外部負債比)の率を大きくしたサブプライム等のリスクのある案件を含んだストラクキャード・フィナンス(金融商品)に格付会社のレイテイングを信じて投資したのではなかろうか。金融取引市場が平穏に推移している間は、アイスランドの大手銀行は若干の金利高を払えば資金は順調に集まり、そのコストをカバーできる各種の運用商品はロンドンやニューヨークから、まるでスーパーマーケットで日用品を購入するからのようにインターネットで買えた。また投資した案件はユーロクリアーや米系カストディアンのBBH(ブラウン・ブラザース・マリマン)などに通常の手数料を払うことで保管され、数千万ドル単位の取引を重ねることができた。
誰が歯車が狂わせたのか?
潮の流れが変わったのは2008年3月に発生したベアー・スターンズ証券の破綻からである。欧米の大手金融機関は自ら運用中の資産の中に金融商品でサブプライム関連の資産があるため、値崩れしたこれらの資産を時価会計で評価すると大幅に評価損が発生し、結果的に自己資本を大幅に棄損しはじめた。

このため欧米大手金融機関は自己資本の充実をすべく、中東やアジアのSWF(政府系ファンド)に資本を求めて「資本参加」を要請した。SWFから巨額の資本を導入できる金融機関は時間をかせぐことができた。ところが2008年9月に、米政府から見放された、リーマン・ブラザーズの倒産で金融機関をはじめとする株価が急落すると各国で信用収縮が一斉に起こり、疑心暗鬼に陥った世界中の金融市場では銀行間の資金取引は機能不全となった。一方、欧州の一部の預金者は、信用力が見えにくい中小の金融機関から預金の引き出しを開始した。このため、金融商品購入のために外部借入比率を高めていたカウプシング銀行をはじめとするアイスランドの3大銀行は、欧州預金者の引き出しが急増したことが伝えられてローンの借り換えが難しくなり、同国の大手銀行は苦境に陥った。10月に入り、同国の外為市場は閉鎖されたため、通貨アイスランドクローネの交換は一切出来ず、英国や欧州大陸の個人預金や銀行・証券の取引も凍結され、前述の日本の円建て債も10月27日に債務不履行となった。また、10月はじめには同国のジェア・ハーデ首相が、英国からの預金の支払いには応じるつもりはないと述べたと報じられため、両国の関係は極度に悪化した時期があったが、同首相は10月6日に「経済の自由化政策は失敗し、銀行とともに国家が破綻しかねない非常事態である」として国民に対してテレビで強調。同国政府は直ちに民間銀行を政府管理下に置く法律を制定し、7日にランズバンキ、8日にグリトニル、9日にカウプシングと3大銀行を次々と国有化した。

英系のバークレイズ・キャピタルは、国有化されたランズバンク宛のレバレッジ・ローン660百万ドルを少しでも回収するため市場入札の手段に入った。また、RBC(ロイヤルバンク・オブ・スコットランド)も同様にアイスランディック銀行保有のレバレッジ・ローンに入札に入り流動化を図った。スウェーデン中央銀行は最大手行のカンプシングに支援を表明し、ノルウェー中央銀行も同国中央銀行に15億ユーロのスワップを設定したが、いずれもアイスランドにとっては焼け石に水であった。

国有化後、3大銀行のうち2つの大手銀行では女性幹部がCEOに内部昇格して、残務整理がはじまった。ロイター電によれば、経済の混乱と政治への不満も高まり、10月27日には首相や中央銀行総裁辞任を求める2000人のデモがにあったという。
IMFが救済策を提示したがーー
アイスランの救援のため、IMFは10月24日に21億ドルの救援融資を行うことに暫定同意した。しかし、英国、独、蘭などが自国民のアイスランド内に預けた預金が封鎖されたままであり、その解除の方法や時期が不透明であるとして、IMFの支援計画の実行に待ったをかけているため、正式な承認はされていない。北欧のノルウェー、デンマーク、スエーデン諸国も金融安定のため、アイスランドの救援援助に前向きであるが、IMFの正式承認が行われない限り、実行に至っていない。同国はIMFの融資の他に更に5億ドル以上の資金が必要であり刻々と資金が逼迫している。IMFとしても、2008年9月に顕在化した連鎖的な金融危機以降、ウクライナに11月5日に164億ドル緊急融資を実行(実行レートは不明)、ハンガリーに対して11月6日に157億ドルのスタンドバイ・クレジットを年率4%で実行し、パキスタンやセルビアをはじめ他の新興諸国の救援課題が山積している。当面、短期的な金融市場の安定策だけでなく、中・長期的な金融防止策、長期的な通貨体制など様々な課題・問題が指摘されはじめてきた。

なお、3大銀行の外貨債務に係わる救援策のアバイザーとして、会計監査法人のデロイト・トッシュが選定されたが、預金封鎖に係わるか各国の思惑があり問題解決には相当時間がかかると思われる。
ローマは一日で成らず!
「借金をしたら貸主の奴隷になる」とは聖書に書かれている。これは古今東西を問わず、収入の範囲内で生活し、身の丈の生活を勧め、背伸びした生活を戒める言葉である。

同国に到来し始祖となったバイキングの祖国ノルウェーは、現在北海油田が好調でその売上代金は全てノルウェー国民の年金のために積み立てられている。その年金基金はノルウェーのSWF(政府系ファンド)に組み入れられその総額は3000億ドルを越え、北米はじめ、世界の有数の株式市場で運用され、日本でも約600社の株式に投資されてきた。

このノルウェーのSWFは、他の中近東やアジアのSWFと比較してその運用と議決権行使にかかわる透明性が極めて高く、市場関係者から高く評価されている。

北欧各国も自国の金融安定のためには、アイスランドの金融安定化が必要であるため、ノルウェーなどの北欧のトップが10月27日から首脳会議をヘルシンキで開催した。IMFの21億ドルの融資がアイスランドに対してどのような条件を国と国民に求めているか、現段階では詳細はわからない。また、ロシアの動きも詳細は不明である。

今回の金融危機は国際金融や証券業務のリスクの深さと広がりが文字どおりグローバル規模なり、一国の内部統制やガバナンスの欠如した奔放な政治・経済の身勝手な動きは、他国に多大な迷惑をかけ、大きなツケを払うことになるという教訓を残した。

今後問われるのは、「誰の責任」でこういう100年に一度の不祥事が起きたかいうキチンとした「責任説明」である、といえよう。
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