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「陸のタイタニック」GMのガバナンス
1.栄光GMの失速
苦境に陥っている米自動車業界は燃費効率のよいハイブリッド車や温室効果ガスを配慮した電気自動車の技術開発促進のために、2007年米議会から一連の条件付きで一連の財政支援を取り付けた。しかしビッグクスリーはその条件が厳しすぎると反発しているうちにウォール・スリート発の金融危機の「100年に一度の津波」が2008年7-9月期にデトロイトを襲った。つまり、原油高騰でクルマ需要が著しく減退したところに、金融危機に伴う販売デイーラー関連のファイナンス締め付けが重なり、新車の販売不振と財政難に陥った。これを嫌ったGM(ゼネラルモーターズ)の株価は、2008年11月11日一年前の42ドルが65年ぶりに3ドルを割り込み、2.79ドルと記録的な安値となった。

米政府によるビック・スリーへの金融支援が具体的に検討されようとしている最中でも、金融市場には悲観的な情報が流れた。ドイツ銀行のアナリストはその調査レポートで「例えGMが破綻を回避できたとしても、同社の将来は破綻に近い道をたどろう」と述べ、支援を受けたとしても、同社の株価は「連邦破産法の申請と同じ水準」との考えを示した。またイギリスのバークレイズ・キャピタルのアナリストも「政府援助によりGMの破綻の可能性は低下するが、ワシントンの介入でGM株価は大幅に希薄化するだろう」とのレポートを書いた。 産業史的に見れば、米自動車業界は乗用車、トラック、バス技術開発にも貢献してきたのみならず、防衛産業や金融サービスの分野でも米経済を索引してきた。特にGMは1973年に始まる第1次石油ショックにすばやく対応して、78年には燃費のよい小型車を発表し他社を圧倒した。以降、数十ヶ国に及ぶ世界中の市場で生産・販売活動を展開し、世界最大級の企業として1995年には売上金約1700億ドル、従業員は75万を越え、その絶頂期には利益が35億ドル、市場シェアは50%に近づいた時期もあった。 この事業展開の規模はヒト・モノ・カネの面で米国陸海軍を合せた数より多く、総資産では世界の国別ランキングで中位国の20番目位になった時期もあった。

GMは米国内でクルマ作りだけでなく、M&Aの分野にも多国籍企業として事業展開をしてきた。一時は、スウェーデンのサーブ(出資比率100%)をはじめ、フィアット(同比率20%)、いすず(同12%)スズキ(同20.1%)などに資本投下した。また情報、通信分野のM&AとしてEDS(エレクトニック・データシステム)を25億ドル、HE(ヒュース・エレクトロニクス)を52億ドルで買収して事業の多角化を図ろうとした。米ヒューレット・パッカードに買収されたESDは1996年92億ドル、HEは95億ドルで売却された。 米国の軍事予算は航空宇宙、原潜建造、通信技術面の質量向上のため軍事予算の配分が多くなる傾向が強まり、GMが得意とする伝統的な輸送機器への技術投資用の軍事関連予算は期待できないまま、日欧メーカーと燃費効率、環境対策、価格などの各面で熾烈な競争に直面してきた。

GMのワグナー会長は2003年のデトロイトの自動車ショウで、「07年にはハイブリッド車を100万台売る」と公言した。しかし、今年のロサンゼルスの自動車ショウで何ら具体的なハイブリッド車を未だ出展できず、新型車の発表すら見送るほど事業計画が狂った。遂に今年11月GMはディーラーへ販売奨励金3億ドルが払えなくなり、スズキの保有株(発行済の3%)もこの時期に223億円で売却するほど困窮した。GMは11月17日、フォードとクライスラーと共に議会に資金救済を求めて下院公聴会に出席し窮状を訴えた。しかし、11月末現在、救済に係わる共和党の厳しい反対により、ビッグ・スリーに対する支援は確定していない。
2.ガバナンス優等生であったGM
米国を代表するGMは歴史に残る名物トップも輩出し、経営改革・ガバナンス実践などの分野でもメッセージを発信してきた。 元社長で大株主でもあったチャールズ・ウィルソンは「国家にとってよいことはGMにとってもよいことだ。GMにとってよいことは国家にとってもよいことだ」との名言を残したのはよく知られているところである。その一方でガバナンスの観点から特筆されるのは、1992年、業績不振で社外取締役らによって当時のロイス社長が更迭され、その後任のスペンテル会長も「モノ申す」大手機関投資家の圧力によって辞退させられた事実がある。これらの事件を背景として、1994年に作成されたGMのコーポレート・ガバナンスの原則は米企業の「ガバナンスの実践例」としてその後の米企業のモデルとなったと言われてきた。

[GMのガバナンス原則]
・取締役会は株主のほか消費者、従業員、取引先、地域社会に対して責任を負う
・取締役会長と社長(CEO)は取締役会が自由に選任する
・取締役会は監査、報酬、財政、ガバナンス等の委員会を設置する
・取締役会の過半数は社外取締役とする
・取締役会は年に1回、CEOの業務評価を行う。
現在、GMの取締役会15名で構成されている。社外取締役はデュポン、フャイザー、イーストマン・コダック、コカ・コーラ、コンパックなどの会長やCEOの他に、大学教授、会計士など14名で、社内取締役はワグナー会長のみである。

また各種委員会としては、社外取締役で構成されるコーポレート・ガバナンス委員会、投資委員会などの他に、CSRなどに係わる公共政策委員会等GMらしくユニークなものもある。

GMのガバナンスは、企業が順調に業務展開し株価も順調に推移している「平時」には機能しているように見えても、今回の金融危機のように外部環境に振り回されて企業自身の対応が限定されている「非常時」では、内部統制の一翼としてどのようにガバナンスの対応がされてきたかが注目される。
3.GMの今後の経営課題
GMの株主総会はデラウェア州で毎年6月上旬に開催される。日欧車の攻勢に加え、燃料効率車や環境対応車への対応が十分でないGMの株主総会はこれまでも市場関係者から注目されてきた。こうした中でもワゴナー氏は毎年取締役会長として90%以上の株主の賛成を得て選任されてきた。しかし、ここ2〜3年の業績不振に伴い株式提案も多くなり、2006年には業績未達に伴うボーナスの返上(賛成41.7%)や会長職とCEOの分離など苦戦する場面が目立った。米国のアクティビストとして有名な個人株主カール・アイカーン氏は「GMの経営不振は他社の株主の目を覚ます。放置すれば他の米企業はGMのような官僚的企業になる」と厳しく警鐘を鳴らしてきた。また同じくジェローム・ヨーク氏は「配当は半分でもいいから経営トップの給料は大幅に減らすべきだ」と指摘してきた。

もし、GMが希望通り米政府の救助資金を「普通株」で受け入れば、今後大株主は米財務省になる可能性がある。そうなれば、議会はGMの直面している危機克服のため抜本的な改善策の説明、大口支払(例えば、25百万ドル以上)の承認、目標額と達成状況の報告、明確な責任体制の確立などを求めよう。優秀なMBA取得の若者はウォール街に集まりデトロイトには向わないと言われる時期が長く一方、従来からAWU(全米自動車労組)の結束は強くGMの退職者の年金受給額は在職時の80〜90%が保証されているという説がある。 11月の下院公聴会でGMは「破綻すれば200万人以上の失業の増加による個人所得や連邦税の減収になり、経済全体への攻撃は大きい」と訴えた。その一方で強力な労組を排除するためには米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)を適用し、再建手続きの中で労働協約を見直して、労務コストを引き下げないと国際競争力は回復しないとの声も多い。

納税者のカネを私企業が費消する限り、資金使途の明確化、資金返済のための事業計画の見直し、厳しいコスト・カットをして給与と年金の抜本的見直しだけでなく、年収25万ドル(2400万円)を越す経営幹部への成功報酬の禁止、官僚体制の改善など痛みの伴う具体的改革は避けて通れないと言えよう。

米自動車業界は第2次大戦、べトナム戦争、イランイラク戦などを通じてタンクや戦闘車両を製造して国からの受注で潤ってきたが、ここに来てGMをはじめとするビック・スリーの落日は自由な資本主義という米国経済の根幹を問う問題である。 ウォールストリートからはじまった金融危機は、リーマン・ブラザーズの退場に加え多額の国家資金注入で金融資本システムを組み変えさせただけでなく、デトロイトの産業資本さえも根本から見直しを迫っている。

すなわち、米国の株主資本主義をリードしてきた銀行、証券、保険、ノンバンク、自動車という中核産業は、大株主が2008年に「米財政省」に変更されたことになる。

政府の救済を受けた企業は、個人株主や機関投資家から議決権行使で従来以上の厳しい指摘をされるのに加え、国家(米財政省)は業績が計画未達の場合はガバナンスの見地から経営責任の明確を求め、経営トップの更迭を要求することになることになろう。
3. 社外取締役はなにをして来たか?
共和党は10月18日の公聴会で、
@9月に燃料・効率の改善策と技術向上のために既に自動車業界には250億ドルのローンを実行することを承認済である。その上更に250億ドルの資金を救済のために行うとすれば、航空業界のような他の困窮している業界にシメシがつかなくなる。
A一度破綻させることにより、非生産的なシステムとなっている年金や医療制度を含んだ労働協約を廃止させ、時代にマッチした生産性の高いシステムに再構築すべきである。
B他の多くの州の労働者は時間当たり30ドル〜40ドルで就労しているのに、時給70ドルを稼ぐデトロイトの自動車労働者に何故に他州の税金を注入するのか、理に合わない。(トヨタの時給はせいぜい40〜50ドルという)
ここで、GMが今日のように設立以来の厳しい状況に直面するに至るまで、GMの錚々たる13名の社外取締役は何を経営監視していたのかという疑問がでる。つまり、GMが再建計画を熟慮せず米下院議会に窮状を訴えることになるまでに、次のようなリスクに対してどのような警告や議論を真剣にしてきたのか、説明が求められよう。

●今年、原油が150ドルに急騰して、消費者が燃費志向を強めている傾向を認識し、燃費や軽量化などの技術面や価格面の改善策について、担当業務執行役員に対して具体的な指示や議論を真剣にどこまで行ったのか?
●サブプライム関に関連して、BNPパリバが2007年の夏にはファンドの取引中止を発表し市場に警告を発していた。2008年3月のベアースターンズ証券の破綻は金融市場に不動産担保や自動車担保の金融方式に「イエローカード」を発していたはずだが、社外取締役達は資金関連執行役員に対して、どのような議論を交わし、警告を発していたのか?また、資金調達を短期から中・長期へ転換の指示はしなかったのか?また、新車販売の要であるGMAC(GMのファイナンス会社)とどのような議論をしてきたのか?
●1997年締結の京都議定書は温室効果ガス削減克服のグローバルな動きであり、日欧の自動車メーカーは長い道程でその技術的ハードル克服に努力してきたが、GMをはじめ米自動車業界はコトの本質の認識を避けてか、CSRの観点から社外取締役達はどのような発言をして来たのか?真剣に対処してきたら電気自動車の試作車はもっと早く登場していてもおかしくないし、新車販売の様相は異なっているはずだ。
●GMは再建中にも拘わらず、ワゴナー会長(55歳)の年俸は22百万ドルである。
株主からも厳しい批判が毎年続いているがベースダウンしようとせず、また、救援を求めて自家用ジェット機でワシントンに出かけるほどの「傲慢な姿勢」に対しても、社外取締役の中で「意見を言う勇気」のある者は1人もいなかったのか?
社外取締役の大半はワゴナー会長が推薦し、一部の取締役はスミス前会長の時代から就任しいるといわれる。いずれにせよ、社外取締役を選任してきたのは株主である。2009年初夏開催のGMの株主総会はGMが破綻しなければ、上記のような主旨の厳しい質疑のやりとりがあり得ると見られる。GMのガバナンスが「偽装であった」のか否かの事実が判明しよう。
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